相続放棄は、家庭裁判所に申述する必要があります。この申述は「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3ヶ月以内に行わなければなりません。
相続放棄をする場合、相続の単純承認に該当する行為をしていないか確認する必要があります。単純承認とは、責任を限定することなく、亡くなった人の権利義務を包括的に承継させる効果を確定させることです。相続人が単純承認をしたときは、無限に被相続人(亡くなった人)の権利義務を承継することになります。
相続人の方は、専門家に相談する前に何らかの処分行為を行い、単純承認に該当してしまっているケースが多く見受けられます。しかし、相続が開始してから数年経過している相続についても相続放棄が認められた場合がありますし、被相続人の財産で葬儀を行い家財道具をすべて処分しても相続放棄が認められたケースもあります。
したがって、相続放棄をしたい相続人が単純承認に該当する行為を行っている場合や、すでに熟慮期間の3カ月を経過してしまった場合でも、判例を確認し様々な事情を考慮して検討を加え、相続放棄ができるかどうか判断する必要があります。
単純承認
以下に該当した場合には、単純承認をしたとみなされ、相続放棄ができなくなりますので注意が必要です。以下、法定単純承認といいます。
- 相続人が相続財産の全部または一部を処分した(ただし、保存行為および短期賃貸借(民法602条)に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない)
- 相続人が自己のために相続開始があったことを知った時から3カ月以内に限定承認または相続の放棄をしなかった(熟慮期間の渡過)
- 相続人が限定承認または相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部もしくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、または悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかった(ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りではない)
相続放棄は各相続人が独自に
共同相続人の1人が単純承認をしたとしても、他の相続人には影響がありません。つまり、相続人は他の相続人に影響を受けることなく、単純承認や相続放棄を行うことができます。相続人が数人いる場合には、各々相続人について個別に熟慮期間が進行します。
熟慮期間経過後に相続債務があることを知った場合、相続放棄をすることが可能か
家庭裁判所への相続放棄の申述は、「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3ヶ月以内にする必要があります。この熟慮期間経過は、法定単純承認に該当し、原則相続放棄をすることができなくなります。
しかし、熟慮期間経過後に多額の相続債務があることが判明した場合、法定単純承認に該当してしまう相続人は非常に酷な立場になってしまいます。
最高裁判所は、昭和59年の判例で、「熟慮期間は、原則として相続人が前記の各事実を知った時から起算すべきものであるが、相続人が、右各事実を知った場合であっても、3カ月以内に限定承認又は相続放棄をしなかったのが、被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、このように信ずるについて相当な理由があると認められるときには、熟慮期間は相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべき時から起算すべきものと解するのが相当である」としています。
つまり、熟慮期間の起算点を遅らせることによって、「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3ヶ月を経過したときであっても相続放棄をすることが可能な場合があることを認めています。
相続開始から3ヶ月を経過していたとしても、相続放棄が可能な場合があります。相続放棄については様々な判例がありますので、案件ごとに相続放棄ができるかどうか個別に検討する必要があります。諦めずに、相続放棄の専門家である司法書士にご連絡ください。